地方都市の衰退する商店街の魅力を再生する


加賀地方の一城下町である石川県小松市は、かつては繊維の町として大変栄えたが、今現在では飛行場や自衛隊基地があるものの、とくに特徴的な産業もなく、他の地方都市と同じように衰退しつつある。しかしそのような状況にありながらも、官民一体の活性化への努力を惜しみなく注いでもいる。時代の大きな流れの中では、そう容易には活性化への道を見つけることはできないが、将来につながる価値観と表現を一つでも確かな形へとしていきたいというのが、この問題を意識している人間に共通したことと思う。

小松市へは、十年程前から仕事で通っていた。始めは仕事先の企業の飛行場から直接生きそして帰ることが多く、時に商店街を歩くことがあっても、ほとんど商店主たちとはかかわりがなかった。それが、5年程前に小松駅前商店街を舞台に行ったワークショップが機会となり、大変親密な関係となった。2年程前には、「小松市中心市街地中小小売商業高度化事業構想」作成委員会の座長を務めることでさらに商店街への理解を深めることができた。
今回回収しリフレッシュを試みた乾物・漬物屋
「角源」は、ご主人自身が商店街の中でも、空き店舗活性化委員を勤めていた方であり、とても積極的な方であった。嘉永年間からの歴史を持つ老舗である。


角源の改装は活性化への一石

改装前の建物は、1978年ごろに、当時の状況からすれば大変モダンに改装されたものであった。今とは状況が大きく違い、古いものから新しいものへという志向が世の中全体に強く働いていた時代であった。その姿をどのようにするのか。この問いかけに対する答えは、町並みであり、街づくりから発想されることばかりであった。

町屋の姿を取り戻す

    単なる一人のデザイナーの発想だけのデザインでは、よほどの天才的な才がなければ,長い年月の中での評価の目に耐えられないものがほとんどではないかと思う。
    現状の姿は、町屋にパラペットを立ち上げた「モダン」な店舗であった。けしていやらしいものではなかったが、町全体、あるいは商店街全体の有り様を考えたときには、町屋という伝統的な宝を生かすことのほうが適策と思えた。
    次に考えたことは、町屋が良いとはいっても、もうひとつインパクトが欲しかった。アーケードを歩いてきた人々が、一歩店内に入った時に、何か驚きをプレゼントしたかった。そのために考えたことは、吹き抜けの大きな空間であった。そのたてに野ぶる空間に驚きを感じるに違いない、そしてその高さを生かしたディスプレイができれば言うことはないと思った。そして入り口から2間分の2階の床を取り、さらに天井をはがし小屋組みまで見せることができた。その小屋組みを見るたびに、「そう、昔の家はみんなこうだったんだよね。立派な梁だこと。」と町屋談義が始まる。

商業の原点を歴史から拾う

    昔は、日本海が表街道であった。江戸時代の発展した交易の幹線が北前船であり、関西から生活物資が北へ運ばれ、北からはニシンや昆布などの海産物が運ばれてきた。富山県の高岡市、新潟県の燕市などに金属業が根付いたのも出雲から運ばれてきたタタラ鉄があったからこその話なのである。
    店内のデザインに何とかこのダイナミックなストーリーを感じさせる表現が欲しかった。そこで生まれたものが船底天井ならぬ船底天蓋を天井から吊り下げることであったのである。空調のダクトや照明器具の化粧カバーという役割も持つこの天蓋は、店内のデザインの重要な骨格となっている。

漆の里を感じる壁面

    漆の代表的な色彩として朱・黒・弁柄(錆朱)がある。そしてテクスチュアーとしては鏡面・塗りたて・乾漆がある。こうした表情を組み合わせて、ディスプレイの壁面を構成した。とはいっても本当の漆を使うには工期が不足していたため、一般の塗装によってイメージだけを繋げることになった。

町に足りない要素を付加する

    小松の町を見ていて一つ残念なことがある。それは、水であり、せせらぎである。昔ながらの集落や町屋の立ち並ぶところには、必ずといってよいほど水の音、せせらぎの輝きは欠かせない。今の小松にはそれが感じられなかった。一つ一つの店舗が改造され、活用される度にせせらぎの表現が欲しいと思う。水の流れは、人を導き癒しを与える。
    町屋は、奥行きが長いのが特徴、そして立地として土地に勾配があったのも幸いし、店内にせせらぎを造った。このせせらぎを遡って奥へ行くと、蔵にたどり着く。この蔵は、小松の商人の生活を展示するギャラリーとなっている。

蔵を生かす

    小松市の駅前商店街には、町屋に付属した蔵が沢山ある。すべての町屋にある訳ではないが、かなりの棟数がある。しかしほとんどの蔵は道路に面していない。公開しようと思っても店の中や住宅の中からしかアプローチできないという悩みがある。現在公開している店舗はこの角源を含めて2軒しかない。これまでの街づくりの提案の中には、蔵を繋ぐ路地づくりというものもあったが実現の動きは残念ながらまだない。もう一軒は、商店会の会長自身の店舗で、婦人向けの洋服屋の中に、ギャラリーとして活用されている。男どもには少し入りづらいのであるが。

蔵前の中庭を生かす

    蔵の前には、中庭があることが多い。道路から店をのぞくと、一番奥にこの中庭が見える。そのような構造を店に取り入れることで、町屋がまた楽しくなる。これも町並みを感じさせる大切な仕掛けである。

気持ちの良いトイレを提供する

    高齢社会の商店街には、気軽に使えるきれいなトイレが欲しい。空き店舗を市が借り入れ、気持ちのよいトイレを作った「タウンオアシス」がすでにあるが、これだけですむことではなく、それぞれの店舗の中に自由に使えるトイレが欲しい。そのような課題に応えて角源のトイレも店から直接入れるようにした。


角源のコンセプト

新しい店作りのために整理していたコンセプトをご紹介しようと思う。

「極める道」
 ・ 町屋の構造を生かした空間作りと町並み作りに貢献する。 
 ・ 商品解説/丁寧にわかり易く各商品を解説すること。それも漬物の原理とか、保存の原理とかをわかりやすく楽し
  く解説する。若い世代に伝えることが大切。食文化の伝承ともいえる活動である。食のミュージアムともいえる場
  をイメージする。
 ・ 老舗としてのかたちをソフトとハード、両面から一つ一つ創りあげていくこと。
 ・ 店の習慣を作る/毎朝毎夕、季節ごと、あるいは産地の海開き、初荷などを表現する。

「楽しむ道」
 ・ 「北陸角源通信」/名称はさらに検討するにしても、季節の便りと産地情報、そして食文化を発信していくことが大
  切。「いまの食卓再考」などの視点が大切。
 ・ 「漬物と酒」「乾物とワイン」など、会費制の小さな集まりをつくることが大切。角源単独ではなく、共同で他店
  舗とのプロジェクトを造ることも大切。地方都市の衰退する商店街の魅力を再生する