丸谷随筆集

2015/7/17
因州和紙の里「青谷(日置)」

5月1,2日因州和紙の里「青谷(日置)」を訪れる

「地場産業としての和紙づくりを続ける」

和紙の命。
ビニルクロスとの違いが和紙の価値を教えてくれる。
表面の色や形は如何様にでもできるのがビニルクロス。
モノに移る陰までも写真に写し印刷できる。
和紙の価値は、繊維の重なりから生まれる厚みのある表情であり、光の奥行きである。
また染色したときにも、繊維の太さがまちまちであるために、濃淡が自然に生まれる。
光の繊細さと空気のふくらみが一体となった表情が和紙の命なのである。
和紙を生かす。そして和紙の価値を引き出す。
それが和紙をつくり加工する心である。
それをさらに生活の現場で生かすのが設計者の役割であり、施工者(経師)の技量なのである。
□ 和紙の材料
よく言われるのが、楮、三椏、雁皮。
大因州和紙(協業組合)ではこのほかに、マニラ麻、ワラなどが使われている。
そう、忘れてはならないのが針葉樹のパルプである。
パルプ以外で最も多く使っているのが楮である。
国内産の楮は、なかなか手に入れにくく、さらに高価なため、多くの製紙工場では輸入材を使っている。
確かに国産材と比べれば、色艶、繊維の細さは異なる、またゴム分も多く含まれている。
輸入材の多くはタイから輸入している。
最近は周辺のミャンマーなどからも集荷されているらしい。
ここ大因州和紙では一時、自前でと近くの山野で楮の育成を試みたが、見事に失敗し、それからは輸入材を吟味し、使っている。

□ 機械で漉く
大因州和紙が地場産業として今もなお成り立っているのは、いち早く機械化に踏み切ったことがその所以と理解して良い。
日本で一番の産地、越前では奥行きのある和紙づくりが今もなお行われ、加飾の世界の奥行きはさらに計り知れないモノがある。
因州ではそのような和紙づくりの風土がないため、楮の単純な和紙づくりに心血を注いだ。
それが基盤となって今がある。
今でも手漉きの工場はたくさんある。
しかし毎年毎年廃業する家が多いのも現実である。
後継者がいる家だけがかろうじて漉き場を守り続けている。
大因州和紙では約50人の従業員が働いている。
立派な地場産業である。
この厳しい時代にあってなお、和紙の機械化が生み出してくれた生業として成り立っているのである。

□ 壁紙という建材に挑む
壁紙の世界では、サンゲツやリリカラ、トミタなどが知られている。
大因州和紙では、こうした壁紙商社に提案し、サンプル帳に入れてもらうのが生業を続ける大切な活動となっている。
積水ハウスなどの住宅メーカーへの働きかけも同じように欠かせない。
しかし、こうした壁紙材は、生業を支える主要な仕事ではあるが、けして本来の和紙を生かした仕事とはいいにくい面がある。
JIS規格をクリアすることが、和紙の価値を殺してしまうこととなっていることになっているからなのである。
防炎処理、耐摩耗性、耐防汚性などの処理は和紙のやわらかさとふくらみを平滑なものに変えてしまっている。
一方、襖紙として販売すれば、そうしたJIS規格に制限されなくてすむという現実もある。
和紙の風合いを生かしたまま販売できる状況もまだ残されているのである。
しかし現場での扱いは大きく変わる。壁紙は、二重構造となっているため、裏に糊を付けても表に糊がにじむことはない。
「クロス屋さん」が次から次へと大きな面積を短い時間で貼れるのもこの構造があるからなのである。
ところが、裏打ちのない襖紙は、そうした貼り方はできない。
伝統的な経師の技術が必要となる。
ものによっては裏打ちが必要とされるし、下張りが要求される。
何を市場に提供していくのか、産地の大きな悩みである。
和紙を扱いながら和紙の良さを生かせていないことも、悲しい性と諦めきれないでもいる。

□ 人間ひとりの才能が日本の壁紙界を激震させている
地元に育ちちぎり絵の世界で活躍していた作家が、壁紙のデザインに取り組んでいる。
彼の感性が新しい壁紙の世界を創り出している。
この大因州和紙の工場の中に彼の創作工房がある。
とても個性の強い独自の世界を和紙に表現している。
その活動の中から和紙の壁紙が商品化されていく。
大因州和紙が、世の中の競争と戦うときになくてはならない戦士なのである。
私にとっても彼の存在は大きい。彼がいるから建築の表現が広げられている場面がある。

□ これからは、もっともっと現場に近いところにいてほしい
建材であることの制限が、和紙から見ればその可能性を縮小してしまっている側面がある。
JIS規格に乗らない自由な羽ばたきが和紙には必要である。
私は、和紙とそうした土俵の中でつきあっていきたい。
産地でも、同じような気持ちが芽生えている。
工業化という建材に取り組んでこそ、改めて和紙の価値を感じ始めているのである。
その試みは、今からなのである。