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「男が設計するということ」

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「男が設計するということ」

建築家と一言でいっても、それが一体どのような人物なのか、分りかねます。
フレッシュで若い人なのか、それともベテランの老練な人なのか、これは大違いですね。
もしあなたが建て主という立場に立った時、はたしてあなたはどちらの人物を選ぶでしょうか。
若さか経験かという選択です。
ところでもう一つ大事なことを忘れていませんか。男の建築家がいいのか、それとも女の建築家がいいのかという選択です。
さてこの「根本的な」問い掛けにはどのような物語があるのでしょうか。
男の建築家がこれから語ってみます。

ボクは、男。
男として生まれ、男として育った。
子供の頃、男の遊びと女の遊びがあった。
ボクの仲良しは、年上の女。
ママゴトをよくやった。
木の実や木の葉を使って料理をつくった。
ゴザの上にきれいに並べてうっとりとした。
紙の着せ替え人形は、母親がつくってくれた。
自分でもつくるのが面白かった。
ボクたちの頃は、道が遊び場だった。
その頃、馬跳び、海戦、石蹴り、ゴム段など遊びはいっぱいあった。
男も女も一緒に遊んだ。
近くの河原で粘土を探したり、恐い洞穴に入ったり、薮こきに分け入ってみたり、トム・ソーヤみたいなことをしていた。

小学生の頃、家中の道具や家具や、毛布や布団や座卓や梯子を使って、よく「陣地」をつくった。
弟にもつくらせて、紙鉄砲で戦争をした。
泣くのはいつも弟だった。
時には、物干台の手摺のコーナーに画鋲でビニール風呂敷を張り上げて「家」をつくった。
台風が近づいてくると、その中に入ってじっとしていたこともあった。
不思議な冒険心が懐かしい。

家には、親戚の年寄りがいた。
どこの誰だか分からなかったが、とにかく「やかましい」としょっちゅう怒られた。
山梨県から東京に来た時には、6畳間に親子4人とおじとおばが一緒に住んでいたらしい。
土間があり、便所が外にあるような家だった。
家に行くには、長くて細い路地を歩いた。
ある時、路地の塀越しにお菓子が空から降ってきた。
ボクはそれを拾った。
そうしたら塀の向こうから、大きな笑い声が聞こえてきた。
なんだか変な気持ちがしたが、それ以上はなんとも思わなかった。
でも何となく心の角に今も残っている光景だ。
子供の心には、貧しさへの恥じらいはなかった。
すべては、あるがままの自分だった。

結婚し、子供ができ、子供が育っている。
家を建て、その家に棲んでいる。
子供達は、自分でいうのもおかしいが、素敵に育っている。
若さが羨ましい。
家にはあまり個室にこもる子供はいない。
みんな居間の大テーブルに集まって、テレビを見たり、勉強したり、おやつを食べたり、音楽を聞いたりしている。
いつも家族は一緒。
ゲームをする時だけ隠っているかな。

ボクは、片付けが楽しい。
料理も面白い。
男だから、家事が面白い。
江戸職人のこだわりのたわしを買った。
円筒状の物と、普通の形の二つだった。
円筒状のモノは、コップにも使える。
フライパンにも具合がいい。
道具がいいと、片付けがもっと楽しくなる。
客があると、料理も楽しめる。
見せることが魅せることに繋がり、見られる料理ができていく。
大学の頃から、家には友人や後輩が集まった。
しょっちゅう泊まり込んでいた。
今思えば、母親がよく朝飯を出していたと思う。
これが今、我が家でも同じこと。
月に二度は人が集まっている。

家づくりは興味が尽きない。
次から次へとやりたいことが増えてくる。
家は科学の広場だ。化学の実験室でもある。
金属を使うには、イオン化傾向を思い出さないと、使った金属があっという間に消えてしまう。
木を使うには、その育ちをよく知らなければ失敗してしまう。
紙も、石も、樹脂も、みな育ちが違う。
家づくりは、失敗の連続。
失敗があるから次の成功を生んでいく。

引っ越しも沢山して来た。
結婚するまで一回しか引っ越したことのない女房には災難だと思うけど、住むことにはどん欲である。
いろんな環境を経験したかった。
小さな借家、大きなお屋敷、団地生活、別荘それぞれにドラマがあったし、住む場所や近所付き合いで暮らし方も変わってしまう。
家を考える仕事をもつ自分にはみんな必要な体験だった。

家づくりには、夢が大事。
夢があるから、実験がある。
夢があるから、工夫も尽きない。
夢があるから、また新しい住まい手とのドラマが始まる。
ボクは男の建築家。
ボクは男の演出家。
そして、舞台監督であり、大道具や小道具づくりの職人でもある。
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